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食べてはいけません(2)

ソルビン酸の場合はどうか。新潮によれば〈特定のヒト集団に過敏性反応、特に接触性蕁麻疹を起こすとの報告〉があるという。生涯にわたり毎日摂取し続けても健康に影響が出ないという1日摂取許容量(ADI)が定められており、体重50sの成人の場合、1.25gだ。記事で「食べてはいけない」と名指しされた丸大食品の「うす塩デリシャスハム」で計算してみよう。同商品は、1枚当たり約0.01gのソルビン酸が含まれている。
つまり、仮に1日120枚食べたとしてもADIには達しないということだ。
もちろん、ハムなどの加工肉は、WHO(世界保健機関)から発ガン性リスクが指摘されており、食べすぎは健康を損なう怖れがある。だが、問われるべきは「量」なのだ。現実的な食生活であれば、上限値に達しそうにない添加物を過剰に恐れる必要はなさそうだ。
添加物を過剰に避けようとすると、別の危険性も生じてくると、前出の伊藤教授は指摘する。
「最も気にするべきは食中毒です。細菌の増殖は大変早いため、もしO157のような食中毒菌が混入した場合は人命に関わる事件となります。ソルビン酸などの保存料は、食中毒菌の増殖を抑制するために添加されているのです」
新潮にコメントを寄せた前出の野本氏は、この3つの添加物を含む食品だけを取り出して、「食べてはいけない」と紹介したことについて、こう首を傾げる。
「それぞれリスクが全く異なるので、一緒くたにすることはできません。リン酸塩はほとんど毒性がありませんし、どうしてなんだろうと思いますね。事実をたくさん書いてくれていますから、新潮の記事が悪いとは言いません。ただキャッチーな点を強調したかったのでしょう。そういう意味では不安を煽っているところはありますね」
「味覚破壊トリオ」についてはどうか
(2)「味覚破壊トリオ」
冒頭の中戸川氏が新潮誌上で度々指摘してきたのが、「味覚破壊トリオ」の危険性である。
これはタンパク質を塩酸などで分解して生成した「タンパク加水分解物」と「酵母エキス」、「化学調味料」の3つを指すという。
これらは加工食品に広く使われるうまみ調味料だ。新潮は第2弾でこれらが含まれたレトルト食品の実名リストを載せた。翌週以降は冷凍食品、調味料、再びレトルト、そしてカップラーメンと5週連続でリストを掲載。「食べてはいけない」と商品実名リストを掲載する根拠になっているのが「味覚破壊トリオ」なのだ。その危険性とは、
〈食べ続けると、味覚障害を引き起こす可能性があり、それが塩分の過剰摂取を招いて高血圧など、様々な病のリスクが増大〉(記事)
一般的に味覚障害の直接的な原因は亜鉛不足と見られている。「味覚破壊トリオ」が味覚障害を引き起こすとは、どのようなエビデンスがあるのだろうか。
「エビデンスと言われると辛い」
「味覚破壊トリオ」の提唱者である前出の中戸川氏に聞くと「ないでしょうねえ」と即答し、こう続けた。
「原因の一つではないか、と言われている程度です。化学調味料を使うとビタミンやミネラルが食材に溶け込まず、バランスの良い食事に繋がりません。そこには亜鉛不足も含まれますから、間接的には味覚障害の原因になりうるとは思います。
私は化学調味料ではなく、お子さんにシイタケや昆布などの繊細な味をわかって欲しいという思いから新潮さんのお手伝いをしています。どちらかというとスピリチュアルな部分ですよね。エビデンスと言われちゃうと辛い部分がある」
(3)トランス脂肪酸
パンやチョコレートなどに含まれるトランス脂肪酸。食用油を加工するプロセスで発生する不飽和脂肪酸の一種だが、これもたびたび登場している。
〈トランス脂肪酸は何%以下なら安心、というようなものではない。そもそも“有害物質”〉として心筋梗塞やガン、不妊症など様々な病気との関連性を指摘している。
第4弾ではパン「一包装」あたりのトランス脂肪酸ランキングを掲載し、その翌週に今度はパン「一個」あたりのトランス脂肪酸ランキングを掲載している。それによれば一個あたりの含有量が最も多いのは、フジパンの「コッペパン〜アーモンドクリーム〜」で2.2gが含まれている。
WHOはトランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー摂取量の1%未満とすることを勧告しており、日本人の平均摂取エネルギーから計算すると約2gとなる。WHOの勧告量を考慮すると、先のコッペパンであれば一個食べただけで、超えてしまう計算になる。新潮の「食べてはいけない」との指摘には、確かに理がある。
前出の中江教授が語る。
「トランス脂肪酸は現在は良くないものだということがわかっています。ですから不必要に摂取するべきではありません。ただ日本は欧米と比べてトランス脂肪酸の摂取量がかなり少ないのも事実です」
食品安全委によれば、日本人のトランス脂肪酸の平均摂取量は総エネルギーの約0.3%だ。一方、アメリカ人は、約1.1%と高く、米国では使用制限などの措置がとられることになった。
「そもそもトランス脂肪酸をゼロにすることはできません。牛肉などの天然の食品にも含まれていますから」(同前)
また、無理にトランス脂肪酸の摂取をゼロにしようとすると、別の危険性があるという。
「油脂類中のトランス脂肪酸量を減らすと、飽和脂肪酸が増える傾向があり、心臓疾患のリスクが減るどころかむしろ増える可能性もある」(前出・山崎氏)
だが、どうしてもトランス脂肪酸が気になるという方には、食パンがおすすめだ。大手メーカーの食パンにはほとんどトランス脂肪酸が含まれていない。栄養成分表示によればフジパン「本仕込み」や山崎製パン「ロイヤルブレッド」は含有量がゼロだ。
「『量』を抜きにして安全性を語ることは絶対に許されない」
これまで検証してきたように、新潮が主張する危険性については、エビデンスがないものも少なくない。ただ、食べ物には一定の危険があるのは事実だ。必要不可欠な塩分も、摂り過ぎれば健康に悪影響があることは広く知られている。食品の衛生管理を専門とする鈴鹿医療科学大学の長村洋一教授が指摘する。
「どんな食べ物も、摂り過ぎれば健康を害する。『量』を抜きにして安全性を語ることは絶対に許されません」
前出の伊藤教授が語る。
「食品の安全性を考える上で基本となるのは、『リスク=ハザード×量』という関係です。新潮には『過剰摂取すると(リスクがある)』といった記述が多く出てきます。しかし、『過剰』がどの程度の量なのかはどこにも記されていません」
前述したように、食品添加物にはそれぞれ「一生涯、毎日摂取しても影響が出ないと考えられる量」である「1日摂取許容量」(ADI)が定められている。これは、膨大な量の生物試験を基に食品安全委で決定されたものである。
「例えば、保存料として使用されるソルビン酸の場合、EUでも同じADIが設定され、米国では一般に安全と認められる物質になっています。新潮ではソルビン酸の危険性を強調していますが、日本人はADIに対しわずか約0.3%しか摂取していない」(同前)
連載の中では塩分や脂質の摂り過ぎにも警鐘を鳴らしているが、ここでも「量」の問題が見られる。
記事では1日あたりの脂質や塩分の摂取量について、カップ麺一食で達するとの記述がある。
ただ、記事中で例として挙げられているのは「カップヌードル キング」(日清食品)や、「ぺヤングソースやきそば 超大盛」(まるか食品)など、通常サイズの1.5倍以上の内容量を持つ商品なのだ。
報道には科学的根拠が必要
意見書を提出した前出の唐木名誉教授が指摘する。
「リスクが判明した場合、いち早くその情報を伝えるのはメディアの責務ですが、それは科学的根拠がある場合に限ります。新潮は、科学的事実に反する情報を載せて、いたずらに消費者の不安を煽っているのです。
新潮にコメントする評論家の方が私見を述べるのは結構ですが、科学的信頼性はありません。新潮編集部の責任はもちろんですが、評論家の方々も『商売のため』と言われても仕方がないのではないでしょうか」
小誌は、新潮に毎週コメントを寄せている“理論的支柱”ともいうべき人物にも話を聞いた。自ら立ち上げた「加工食品診断士協会」の代表理事を務める安部司氏だ。ベストセラー『食品の裏側』の著者でもある。
「『食べるな危険』というのは俺は知らんよ。それはあいつらの書き方さ。食べてはいけないって煽ったほうが雑誌は売れるじゃん。俺はまったく嘘は言ってない。要は国のデータを盲信するなってことだよ。
添加物にメリットがあると思うなら、インスタントラーメンだって食べればいいじゃん。それで成人病になったっていいじゃん。食べてガンになればいいじゃん。だっていい思いをしたんだから。ただ、その時に俺の社会保険料まで使うなって話だよ」
週刊新潮編集部に専門家からの批判などについて見解を尋ねるとこう回答した。
「本誌記事は食品添加物等のリスクについて報じたものです。食品添加物に関しては、今現在、安全だとされているものが、未来永劫安全だという保証は全くありません。実際、一旦は認可されたものの、その後、突如として使用禁止になった食品添加物は60種類にものぼります。また、記事の中でも触れた通り、いたずらに消費者の恐怖を煽る意図はいささかもありません」
世には、さまざまな健康記事、健康本が溢れている。過激な見出しであればあるほど、世間の耳目を引きやすいのは確かだ。ただ、事は命、健康にかかわるだけに、危険を煽るだけでなく、どれだけの根拠に基づいているかを、小誌も含めたメディアは、伝える責任がある。本記事が、読者が「正しく怖れる」根拠になれば幸いである。



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