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ネット依存症

サイト閲覧、ゲーム課金……ネット依存症の症状と治し方
インターネットに日常生活が侵食されていませんか?
インターネットは私たちの社会を大きく変えたテクノロジーと言えるでしょう。筆者がまだ子供だった頃は、そもそも「パソコン」という言葉すらなく、このような未来がくることはまったく想像していませんでした。
現代では、多くの人が一日のかなりの時間をインターネットに費やしていると思います。もちろん仕事上必要な方も少なくないでしょうが、特に必要もなく多大な時間をネットやネットゲームに費やしているヘビーユーザーは、依存症の状態に陥っていないか、気をつける必要があります。以下でインターネット依存症について詳しく解説します。
正式な病名になるかもしれない「インターネットゲーム障害」
インターネットが普及して20年近く経過しましたが、アルコールやギャンブルなどへの依存症と同様、ネットユーザーの一部に深刻な問題が生じていることには、すでに多くの方が気付かれていると思います。
アメリカでの統計では、インターネット依存症の頻度は人口の0.3〜0.7%。該当する方が週にインターネットに費やす時間は平均38.5時間。結果として40%の方の睡眠時間が4時間以下になっていると報告されています。
2013年に改訂されたアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』では、現段階ではまだ正式な診断名ではありませんが、研究段階の診断名として「インターネットゲーム障害」という病名が新しく加えられました。
「インターネットゲーム障害」という病名にもある「ゲーム」はネット依存になる大きな原因の一つですが、過度のオンラインでの衝動買いや性的な内容の閲覧なども、インターネット依存症に含まれます。
インターネット依存症の症状
インターネット依存症の具体的な症状は以下の通りです。
・いつもインターネットの事が頭を占めている
・最初に決めた以上の時間をどうしても費やしてしまう
・インターネットにつながっていないと気分が不安定になりやすい
・インターネットが冴えない気分を晴らす手段になっている
・インターネットに依存している実際の状況を周囲に隠している
・インターネットを利用する時間が長すぎるため、生活の大事な部分に深刻な支障が生じている
インターネット依存症になると脳に変化が起きる?
インターネットに依存すると、アルコールなど薬物に依存した場合と類似の変化が脳内に現われるという研究報告が数年前にありました。
それは中国科学院のHao Lei氏らが、『Plos One』誌に発表したもので、14歳から21歳までの35人の男女に対してインターネット使用の状況を調査した結果、約半数の17名がインターネット依存症に該当しました。
この17名の脳を画像診断で調べたところ、ネット依存がみられない集団に比べ、統計学的に有意に、脳内の眼窩前頭皮質と呼ばれる領域の「白質」に異常が認められたとのことです。
「白質」とは簡単に言えば、脳内の神経細胞から神経細胞へ情報が伝達していく通り道のこと。
インターネット依存症のグループで異常が見られた領域は感情の生成や意思決定、認知の制御などに関連する領域です。この異常はアルコール依存症などでも見られることが知られています。
Hao Lie氏の報告は、インターネットを利用するという「行為」への依存症でも、アルコールなど物質への依存症と類似の変異が脳内に見られることを見出した点で画期的です。なお、この白質の変異はネット依存状態の結果なのか、それとも逆に、元々白質に変異があった人がインターネット依存症になりやすいのかという点に関しては、まだ明らかになっていません。
ネットゲームへの高額課金……ギャンブル依存症にもご注意を
また、オンラインゲーム(ネットゲーム、ソーシャルゲームなど)に高額課金をしてしまい大きな問題を抱えてしまう人もいるようです。ゲームへの課金経験がある人は少なくないようですが、何度もう止めようと思っても課金を止められず、経済的に苦しい状態になっている人の中には「ギャンブル依存」に近い状態の人もいるのではと思います。
ギャンブル特有の心理状態には、脳内の神経伝達物質が関係しています。人はストレスを感じると、ストレスの元となる何らかの危険な状況に備えるために、脳内に「ノルアドレナリン」が分泌されます。そして同時に、リスクを取りたいという気分も生じます。ギャンブルをしてスリルや快感を感じている時には、「ドーパミン」という脳内物質が分泌されています。
このドーパミンは、おいしい食事をしたり、パートナーと楽しく過ごしている時にも分泌されるものです。オンラインゲームに熱烈に恋をしているかのように熱中してしまう場合、こうした脳内物質が影響した快感により、依存症の状態になっている可能性があります。
依存から抜け出すには専門家の力を借りることも大切
インターネット依存症は大部分の方は無縁でしょうが、米国の統計によると、1000人中3〜7人が該当するようです。繰り返しますが、ネットのヘビーユーザーの方は注意を払っていただきたいです。
もしインターネット依存症になってしまった場合、解決する手段はただ1つ。それは依存症一般に共通しますが、依存の原因に2度と手を出さないことです。
依存症の本質は、その原因に対するコントロールが自分の力ではほぼ不可能になっていることにあります。それは決して本人の意志の問題ではなく、上記の研究報告も示唆していますが、脳機能に何らかの変容が生じた結果、その原因に接することで、それに対するコントロールを失ってしまうのです。
仕事でもプライベートでも、ネットをまったく利用しない生活を送るのは現実的に難しい時代ですが、依存症の状態になってしまうと、自力での解決は非常に難しくなります。自分自身や家族がネットに夢中になるあまり、現実の生活に支障が出ていることに気付かれた場合、精神科(神経科)を受診され、専門家の力を借りるべきであることを、皆さまどうか頭に置いておいてください。


こちらはギャンブル依存症
ギャンブルで負けている人は、今後も負け続ける可能性が高い
カジノ法案(カジノを含む統合型リゾートIR実施法案)の成立を目指す国会審議が大詰めを迎えているが、反対派の多くが懸念するのは、ギャンブル依存症による多重債務者の増加などだ。そもそもギャンブルの「負け」はギャンブルでは取り戻せないと話す人は多いが、本当なのだろうか。ニッセイ基礎研究所・主任研究員の篠原拓也氏が、確率統計学をもとに解説する。
確率や統計の話題には、ギャンブルと関係するものが多い。その中でも、コイン投げゲームにまつわるものは数多くある。コイン投げゲームの有名な法則を1つ紹介しよう。
まず、偏りのないコインを1枚用意する。コインを投げて表が出たら勝ち、裏が出たら負けとする。勝ちの場合は100円を受け取り、負けの場合は100円を支払う。このコイン投げを何度も繰り返す。コインを投げるごとに、100円を受け取ったり支払ったりするので累計収支が変動する。
コインに偏りがないとしているため、表と裏の出る確率はいずれも2分の1とみてよい。まず、最終的な累計収支がどのように分布するかを考えてみよう。
最終的な累計収支がトントンになるケースは、たくさんある。当初勝ち続けて黒字が膨らんだが、その後負け続けて結局0になるケース。逆に、当初負け続けて大赤字になったが、その後勝ち続けて結局0になるケース。勝ったり負けたりを続けて、結局0になるケースなどだ。
勝ち続けたり負け続けたりして、最終的に大きな黒字や赤字になるケースは少ない。最終的な累計収支の分布は、収支0を頂点とした山の形になる(図1)。これを、コインを10回投げる場合でみてみよう。
収支の変動パターンは全部で1024 (=2の10乗)通り。そのうち、最終的な収支が0のケースは252通り。約4回に1回は、収支トントンで終わることになる。一方、10連勝や10連敗で累計収支が1000円の黒字や赤字になるケースは1通りずつしかない。
ギャンブルを楽しむためには、最終的な勝ち負けが大事だが、それだけではない。これまでのところ勝っているか、負けているかというゲームの途中経過も、楽しむための大きな要素となるはずだ。
最終的な累計収支の分布を見ると、直感的に、「勝っている状態(それまでの累計収支が、黒字の状態)と負けている状態(同じく、赤字の状態)は同じくらいあるのではないか」という感じがしてくる。この直感は正しいだろうか。
10回のコイン投げで、コインを1回投げるごとに、勝っている状態か、負けている状態かをみてみる。そして「黒字の状態の数−赤字の状態の数」として状態の差をとる。これを1024通りのそれぞれについて計算してみる。ただし、累計収支が0の状態は、黒字の状態や赤字の状態にはカウントしない。
10回とも裏で負けの場合は、当然累計収支は常に赤字なので状態の差は−10。6回裏が出た後に4回表が出た場合も、ずっと赤字のため状態の差は−10となる。
4回裏が出た後に6回表が出た場合は、8回目が終わったところで累計収支は0。それまでの7回は赤字、それ以降の2回は黒字なので、状態の差は−5となる。この場合は、最終的な累計収支は200円の黒字だが、負けている状態を多く味わっていたため途中経過を表す状態の差はマイナスとなるわけだ。
1024通りについて「黒字の状態の数−赤字の状態の数」の差をまとめると、図2のようになる。直感に反して、図の両端、つまりずっと黒字の状態である10や、ずっと赤字の状態である−10のケースが多い。
逆に、黒字と赤字の状態が同じになる、差が0のケースは一番少ない。つまり、「黒字と赤字のどちらかの状態ばかりを味わうことが多く、両方を同じくらいに経験することはあまりない」ということになる。
コインを投げる回数を10回よりも増やしていくと、黒字か赤字のどちらか極端な状態ばかりを味わうケースが増える。ケース数を表す棒グラフの結果を曲線でつないでみると、U字型になっていく。この事象は「逆正弦法則(※注)」と呼ばれている。
※注/黒字と赤字の状態の差が一定範囲内にある確率を計算するには、この曲線の積分が必要となる。その際、逆正弦関数(サイン関数の逆関数)が現れるため、このような名前で呼ばれている。
この法則を一般的な事例で理解するには、野球、バスケットボール、バレーボールなどのスポーツで、どれくらいシーソーゲームが起こりやすいかを考えてみるとイメージしやすい。対戦している両チームの実力が互角とすれば、点をとったり、とられたりする確率も同じくらいであろう。
では、試合がいつもシーソーゲームになるかというと、そうとは限らない。むしろ、先制点をあげたチームがそのまま逃げ切ることや、追いつかれて引き分けで終わることが多い。たとえ逆転劇が見られたとしても、逆転したチームがそのまま勝ち切ることが一般的だろう。両チームが逆転につぐ逆転の大熱戦を演じて観客を大いにわかせる、といった好ゲームにはめったにお目にかかれない。
コイン投げのゲームに話を戻そう。このゲームをみていくことで、つぎの2つのことがわかった。
(1)最終的な累計収支の分布は収支0を頂点とした山の形になる。
(2)しかし、ゲーム途中で黒字の状態と赤字の状態のどちらが多いかをみると、どちらかに偏る場合が多い。
ギャンブルで負けている場合、この先挽回して勝ちの状態を同じくらい味わうことより、負けの状態を味わい続けることのほうが多いということになる。
これは、すでに負けている状態からコイン投げゲームを始めた、と考えるとわかりやすい。たとえ少しくらい表が続いて出たとしても、負けている状態から脱するのは難しい。それどころか、もし裏が続いて出てしまえば、もっとひどい負けの状態におちいることもある。つまり、ギャンブルで負けが込んでいる人は、今後も負け続ける可能性が高いといえる。
ここで、1つ注意点がある。このコイン投げのゲームでは、表と裏の出る確率をいずれも2分の1として話を進めた。
しかし、実際のギャンブルでは勝ちと負けの確率が半々ということはあり得ない。ギャンブルの主催者に、ある程度利益が渡る仕組みとなっているからだ。このため、ギャンブルのプレーヤーは1回のゲームでは負けることのほうが勝つことよりも多い、すなわち負けの確率は2分の1よりも大きいといえる。
ギャンブルで負けていると、それを取り返そうとして、さらにギャンブルにのめり込んでしまう。こういう話は昔からあちこちで耳にする。これは、ギャンブルの行為や過程に心を奪われて、やめたくても、やめられない状態になる「ギャンブル依存症」の問題に、関係しているのかもしれない。
統計的には、赤字の状態から挽回して、黒字の状態を同じくらい味わうということは起こりにくい。ギャンブルで負けているときには、いい加減どこかであきらめて手を引く判断が必要と思われるが、いかがだろうか。



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日記

中国のロボット産業

深センで目撃したロボット産業の恐るべき進化
中国・深センや隣接する東莞の一帯が、これまでの低賃金を武器にした労働集約型産業から変貌し、「紅いシリコンバレー」とか、「ハードウェアのシリコンバレー」と言われ始めている。
その理由は、スタートアップ企業が多く生まれているからだ。2017年の新規登録企業数は約36万社に到達。単純計算すると、1日あたり1000社がこの地区で誕生していることになる。2017年の中国における特許受理件数も約40%が深センに拠点を置く企業によるものだ。
ベンチャーから始まって企業評価額が10億ドルにまで成長した会社を「ユニコーン企業」と呼ぶ。2017年に深センでは、そのユニコーン企業が12社誕生した。分野は、インターネットファイナンス、物流、不動産など多岐にわたる。
筆者は今年3月末から4月初旬にかけて深センや東莞を訪れた。そこで中国企業の意思決定の速さと30代の経営幹部が多いことに驚いた。これがダイナミックに産業構造を変えられるパワーの源泉の一つと見た。
「白牌企業」や「山塞企業」と呼ばれるコピーメーカー
深センの歴史を振り返ろう。ケ小平の経済開放路線で先陣を切って1980年に中国初の経済特区に指定、労働集約型の製造業から始まり、「来料加工」と呼ばれる製造業や、コピーメーカーが発展した。香港や台湾の大資本が深センを利用して、あらゆるモノを生産して、「世界の工場」と言われるまでになった。
「来料加工」とは、たとえば日本から原材料を輸入してそれを加工し、組み立て工場がある他国へ輸出するような付加価値の低いもの造りのことを指す。コピーメーカーは現地では「白牌企業」や「山塞企業」と呼ばれる。日本でも知られている、シャープを買収した台湾の鴻海も深センを一大拠点としている。
深センのモノづくりについては、『 「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ 』(藤岡淳一氏著)が詳しい。同著は、日本の産業界では隠れたベストセラーになっているほどだ。
藤岡氏は日本に本社を置くジェネシスホールディングスの社長だが、2011年に深センでEMS(製造受託)企業を創業。イオン向けに格安スマホを生産したことで話題となった。藤岡氏は創業前の2001年頃から深センに乗り込み、製造業に深くかかわってきた。
同著などによると、「白牌」とは、ノーブランドのことを意味し、「白牌企業」から家電製品を大量購入して勝手に自社ブランドとして売ることが可能になる。家電量販店などの自社ブランド安物家電はこうした「白牌企業」から調達しているという。「山塞」とは、山の要塞のことで山に住む山賊を意味するそうだ。無許可でコピー品を造っている会社で、国際的にみれば非合法かもしれないが、この手法が「当たり前」のビジネスのやり方としてこの地域では通ってきた。
「シリコンバレーの3カ月は深センの2週間」
特に「白牌企業」や「山塞企業」の発展は、世界であまり類を見ないような部品産業を誕生させた。それは、「公板」や「公模」の発展だ。「公板」とは文字通り、パブリックの基板という意味で一般流通している基板モジュールのことだ。新製品開発に当たって独自の基板を開発しなくても外部の「公板企業」から調達すればよい。同様に「公模」とは誰でも購入可能な金型メーカーが保有する成型部品のことを指す。
深センのしたたかな企業は、こうした「公板」や「公模」を使って素早いものづくり能力を身に付けた。意思決定や実行の速さという点が深センの強み、魅力と言えるだろう。産業界の一部からは「シリコンバレーの3カ月は深センの2週間」と言われるほど動きが素早い。実際、シリコンバレーで生まれたアイデアの具現化を深センが担っているケースもあるようだ。
深センでベンチャーとして生まれ、世界的な企業に成長を遂げた企業も多い。たとえば世界的な通信企業に成長した華為(ファーウェイ)技術やドローンでグローバル展開するDJI、メッセージアプリの「微信(We Chat)ブランド」で知られるテンセント、電気自動車(EV)で先駆けたBYDなどだ。大企業に成長した元ベンチャーが、新たな産業を育てる仕組みもできていて、人やお金のつながりが生態系のような形になっている。
ロボット産業強化の背景に人件費の高騰と「農民工」の不足
この深センや東莞で新たに台頭しているのがロボット産業だ。これには中国の国家戦略も大きく関与している。2015年から始まった「中国版インダストリー4.0」と呼ばれる産業政策「中国製造2025」において重点強化する産業の一つだからだ。「製造業強国路線」の主軸は、EVと並んでロボットが果たすと見られる。
中国における労働者1万人当たりの産業ロボット普及台数は69台。これを150台にまで高めていくために莫大な補助金が投入されている。参考までに米国の普及台数は189台、日本は305台。産業構造の転換を推進するために従来の「来料加工」などへの補助金制度は廃止されたという。
中国がロボット産業を強化する背景には、人件費の高騰と、地方から都市部に出稼ぎに来る「農民工」の不足がある。このため、企業は製造ラインの自動化を急速に進めているが、このニーズに対応しなければならなくなっている。
スマホ向けなどに電子部品を生産する日本メーカーのサトーセン(本社・大阪市)の下請けで、深センに工場を持つ斯特辰電子の金善龍総経理が語る。
「20年前にこの地域における電子機器やプラスチック製造などの工員の月給は600元(約1万円)程度が相場だったのが、今は残業代を入れて5000元(約8万5000円)。近いうちに1万元になるでしょう。人件費が高くなったため、もちろん企業ごとに差はありますが、労働集約型企業が深センや東莞で工場を構えるメリットは、少なくなっています」
労働集約型企業には不向きな土地に
地価の高騰も著しい。深センのマンションの価格は1平方メートル当たり8万元(約136万円)もするケースもあり、日本円で1億円近くを費やさないとマンションが買えない状況になっている。労働集約型企業には不向きな土地になりつつあるのだ。
中国のロボット需要に関しては、日本企業も恩恵を受けている。2017年の日本製産業用ロボットの輸出額は前年比36.2%増の5284億円となり、過去最高を更新した。中でも中国向け輸出(57.9%増の2275億円)がけん引した。
中国は日本など海外からロボットを輸入して、カスタマイズしながら学ぶと同時に、豊富な資金力をバックにM&Aとベンチャー育成で自国ロボット産業を育成している。
たとえば東莞で2013年に起業した「中天自動化科技」は、日本で不良在庫処分市のロボットや工作機械を購入してそれを改良し、スマホ向け部品の研磨などをしている。いずれ自社でのロボット開発を目指している。社長の唐康守氏は、EMS企業で作業員として働きながら裸一貫で起業したという。
輸入に頼るだけではない。2016年には中国の美的集団が、スイスのABB、安川電機、ファナックと並ぶ世界4大ロボットメーカーの一角、ドイツの名門KUKAを買収した。この美的集団は安川電機とも提携しており、日独の両方から技術習得を狙っていると見られる。したたかだ。
同じく東莞の「松山湖国際機器人産業基地」。機器人とは中国語でロボット。ここはドローンで有名なDJIと実力アジアNo.1と言われる香港科技大が投資して設立した。ここでは、工場の自動搬送システム(AGV)を応用した、空港やホテルなどで空いている駐車場に自動的にクルマを移動させる「スマートパーキングロボット」などを開発するベンチャーも生まれている。
「このままでは中国メーカーに負けてしまう」
ロボットでは世界トップの実力を持つ日本企業も中国の存在を侮れなくなっている。ここで少しロボットの仕組みについて簡単に説明する。ロボットは穴を空けたり、曲げたり、削ったりする作業が苦手で、モノを運ぶことを得意とする。その理由はロボットの「腕」は、反動の加工反力に弱いからだ。このため、ロボットがモノを運び、工作機械が作業をする分業だった。
ところが、中国ではその「分業」という考え方に変化がみられる。
工作機械業界に40年近く関わり、中国向けに日本製ロボットや工作機械をカスタマイズする広州太威機械を創業、中国の工場の運営に詳しい安江恒憲氏も指摘する。
「日本ではロボットの能力は、どれくらいの重さのものを運ぶことができるかを示す可搬重量で評価されるが、中国では処理スピードが重視される。しかし日本企業はこうした顧客のニーズを把握できていない。中国に開発部門を持たない日本のロボットメーカーは、中国の生産現場の変化の事情に疎くなり始めている。このままでは将来、中国のメーカーに負けてしまう」
作業が止まらないように「正味稼働」を高める
中国の新しい概念のロボット造りを象徴する企業が東莞に本社を置く「広東天機機器人」だ。2017年7月に設立されたスマホ製造用ロボットの会社で、安川電機も35%出資した。
この中国企業が造るロボットを見ると、日本ではあまり見ない工作機械と一体化したようなもので、スマホのカバーなど軽いものをいかに素早く曲げて研磨するかに力点が置かれて開発されている。ロボットも工作機械も作業が止まっている時間がないように、「正味稼働」を高める設計がされている。こうした設計思想自体が、製造現場が海外に流出している日本では失われつつある。
日本の産業界には「スマホ用ロボットに弱い安川が、中国の製造現場のニーズを吸収しようと焦って出資したのではないか」との見方もあるほどだ。
こうした事情から中国では日本製を輸入して、現地に合った処理能力の高い機械にカスタマイズすることが求められるのだ。この分野が大きなビジネスになっているにもかかわらず、高品質・高性能との評価に胡坐をかいて、日本企業は現地のニーズに耳を傾けずに、そのまま自社製品を押し出すだけにとどまる傾向にある。
この背景には、日本から大量生産の現場が消えつつあるうえ、日本のロボットメーカーは中国に本格的な開発拠点がないため、最新のニーズが伝わりにくくなっているという課題もある。
「これが本当の『空洞化』ではないか」
東莞でスマホ部品などの生産設備を造る工場を2016年に開設したJ-LASA社長の首藤優時氏は、長年日本の大手電子部品メーカーでも生産技術を担当してきた。その首藤氏はこう語る。
「日本製のロボットや工作機械が中国の現場ではそのまま使えないだけでなく、日本の本社の生産技術部が設計した製造ラインの発想自体が古くて中国では使えない。日本から製造現場がなくなっているので、現場を見たことのない技術者が机上の空論でライン設計するからです。これが本当の『空洞化』ではないか」
また、深センや東莞のメーカーは、新製品の開発にあたっては、設計図を作成する段階で社内調整などはなく、売れると思った製品をいきなり試作して、その試作品から設計図を完成させていく傾向が強まっている。製品開発のスピードを速めるためだ。その試作品を素早く造るための生産設備も求められている。
中国のロボット産業の成長に象徴されるように、中国企業は意思決定が速い。そして、「徹底したデータ主義と負けを率直に認める現実主義によって、技術力を身に付けるのが速い」(首藤氏)。
今でも日本には、中国のメーカーは「安かろう悪かろう」の製品を造っていると思っている人は多い。これはとんでもない時代錯誤的な認識だ。このままでは、日本のお家芸のひとつ、ロボット産業も中国企業の後塵を拝する日も近いだろう。
◇ ◇ ◇
現地取材をもとに井上氏が執筆したルポ「中国の未来都市『深?』がすごい」は、現在発売中の 「文藝春秋」7月号 に掲載されている。



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