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未曽有の異常


2016年末の北極は未曽有の異常だった

北極の氷はなくなるか、研究者の視点


ノルウェーのスバールバル諸島で、みずからが置かれた状況を考えているホッキョクグマ。ここ30年で、北極の氷は厚さ、範囲ともに減り続けている。

北極の冬は長く、太陽も昇らない。通常、気温はマイナス20℃を下回り、海は厚い氷に覆われる。だが、2016年の北極は異常だった。

あと1カ月で真冬という11月中旬になって海氷が解け始め、5万平方キロほどの氷が失われた。この時期では未曾有の規模だ。

さらに12月末には、北極点付近の気温が0℃近くまで上昇した。

「私が北極の気候観測を始めたのは1982年。大学院生になったばかりの頃でした」。米国コロラド州ボルダーにある国立氷雪データセンターの所長、マーク・セレズ氏はそう話す。

「長いこと北極を観測してきましたが、こんなことは初めてです」


北極の氷は消えるのか

このような極端な状態は、私たちの未来にどのような影響があるのだろうか。温室効果ガスの排出によって、北極の氷はなくなってしまう運命にあるのだろうか。

北極の氷の量が一番少なくなるのは、氷が解ける時期が終わりを告げる毎年9月だ。冬が始まれば再び氷の量は増加するが、セレズ氏によれば、9月時点の氷の量は10年ごとに約13%ずつ減少している。

今回の気温上昇と季節外れの氷の融解は前例のないことかもしれない。しかし、予測できなかったことではない。

地球温暖化が着実に進み、それに自然の変動が重なれば、このようなことも起きる可能性があると予想されていた。

だが、これは北極の氷がなし崩し的に消えてしまうという予兆なのだろうか。気象学者たちは、地球温暖化によって北極の夏の氷が消え、二度と元に戻らなくなることを恐れていた。

理論的には、北極を覆う氷の面積が少なくなれば、海洋に吸収される太陽の熱が多くなり、大気中に反射される熱は少なくなる。

海が多量の熱を吸収すれば、氷が形成されなくなり、北極に氷のない夏が訪れる。つまり、北極は「臨界点」を迎えることになる。


氷は抵抗する

だが、2011年に発表されたある論文がその議論に一石を投じることになった。執筆者は、ドイツのマックス・プランク気象研究所の4人の研究者たち。論文で、北極の氷には「臨界点はない」としている。

彼らが行ったシミュレーションによれば、夏に氷がなくなっても、冬になると海洋に蓄えられていた熱が大量に失われるため、氷が急速に成長し、夏が終わるまで解けずに残るものもあるという。

それを裏付ける観測データもある。2007年9月には、記録的に海氷が少なくなったものの、その後かなり持ち直している。

論文の著者の1人であるディルク・ノッツ氏は、「北極の海氷は失われる傾向にあります。しかし、信じがたいかもしれませんが、海氷はそれに対して驚くべき抵抗を行っているのです」と話す。

「たとえば、現在の北極には巨大な開水域があり、冷たい冬の大気に直接接しています。昨年の12月は記録的に高い気温でしたが、今は北極の大部分で気温が下がっています。

そのため、開水域では海洋から大気中に熱が大量に放出されます。氷に覆われていた場合よりも、はるかに大量の熱が失われるのです。

ここ数カ月で起きたような極端な事態が何回か起きたとしても、それを埋め合わせることができるくらい氷が急成長するのではないかと考えています」

たとえ北極の海氷が「臨界点」を超えることはないにしろ、グリーンランドを覆っている巨大な氷床については話が別だ。地球の気温が上昇すれば、グリーンランドの氷床は失われ続ける。

氷が解けるにつれて、氷床の高さは減少の一途をたどり、低くなった氷床が暖かい空気に触れることになる。

「ある時点で、グリーンランドの氷床の消滅は止められなくなるはずです」とノッツ氏は言う。「これは明らかな『臨界点』だと考えています」


温暖化を止められるか

ノッツ氏は、北極の海氷の回復力にも限界があると主張する。化石燃料の消費量削減は急務であり、そうしなければ、やがて北極では氷のない夏があたり前になってしまう。

ノッツ氏のグループは、最近「サイエンス」誌に掲載した論文で、二酸化炭素(CO2)の排出量と氷床の融解には直接的な関係があることを突き止めた。

論文では、CO2が1トン排出されるごとに、約3平方メートルの氷床が失われるという具体的な数値を示している。

「ドイツ人1人が1年あたりに排出するCO2の量は約10トンです」とノッツ氏。「米国では16トンほどだと思います。

そこから、ドイツ人の私が北極の氷床の消滅にどのくらい寄与しているかを計算することができます。

1年あたり約30平方メートルです」

「私たち皆がどのくらい北極の海氷を喪失させているかがはっきりする時は突然訪れます。海氷の消滅は偶然起きることではありません。

飛行機や車でどこかに行ったら、それによってどのくらい海氷が解けたのかを後で計算してみてほしいのです」

ノッツ氏によれば、私たちがあと7000億トンから1兆トンのCO2を大気中に放出すれば、北極の夏の氷は消滅するという。

現在のペースだと、それは20〜25年後だ。この排出レベルは、パリ協定で定められた値ともほぼ一致する。パリ協定は、産業革命前の水準からの気温上昇を摂氏2℃未満に抑えることを各国に求めている。

さらに、今後各国がさらに厳しい1.5℃という目標を目指すことも盛り込まれている。これは、北極の海氷が年間を通して存在できるレベルだ。

いいニュースもある。温室効果ガスの排出を抑えることができれば、北極の海氷はすぐにでも安定するというのだ。

「もし、何らかの方法で、来年の排出量を半分に削減できれば、氷がなくなるまでの時間は倍になります」とノッツ氏は言う。

一方で、悪いニュースもある。現在、私たちはそのような取り組みを何も行っていない。「おそらく、今までと同じような傾向が続くでしょう。

年によって急激に上がったり下がったりを繰り返しつつ、全体としては下降傾向が続くものと思われます」とセレズ氏は言う。「2030年ごろには、北極に氷のない夏が来るかもしれません。

しかし、自然の変動によって、次の10年は氷が復活するということも考えられるのです」

「しかし、今年と昨年の冬を見るかぎり、眉をひそめざるをえません」




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